企業活動における重要な価値を提供するプラットフォームを別のプラットフォームへ移行する際、現在のプラットフォームとターゲットとなるプラットフォームの複数の側面を慎重に検討する必要があります。これらの考慮事項には、構成、サービス、機能、技術、およびサポートの違いが含まれます。変革、改善を進めるには、意味のある事業モデル、ビジネスケースを確立するとともに、多くの要素のバランスを取り、調整する必要があります。
多くの場合、適用施策活動の過程で採用するプラットフォームが企業活動に価値を与えるか否かを、実証実験/実装を通して検証します。オンプレミス環境からクラウド環境への移行、あるいは既に利用中のマルチクラウド、パブリッククラウド、プライベートクラウドの統合を目指したハイブリッドクラウド環境へ移行する前に重要な側面・要素を確認します。
ただし、側面を掘り下げる前に、主要な質問に答える必要があります。オンプレミスからクラウドへ、クラウドからハイブリッドクラウドへ移行する理由は何ですか?これらは、データセンターの廃止・機能転換を含めた出口戦略、クラウドサービスの使用率、パフォーマンスなど、複数の要因である可能性があります。プラットフォームを移行するには、それに伴う複雑さとそれらを解決する方法を理解する必要があります。
- 市場価値、利用者ニーズを捉えた「差別化」に応えた選択か?
- ビジネス可用性戦略はテスト可能で、環境全体でサービスの価値を相乗効果で高められるか?
- 利害関係者のための価値の最適化に必要な行動は?
- 顧客ニーズの理解、適切な製品/サービスを提供して、競争力を高められるか?
本稿では2019年~2021年にかけて実施したハイブリッドクラウド導入プロジェクトの例を紹介します。パブリッククラウド環境構築(実証実装編)ではクラウド利用評価/策定から始まり、実現方式検討・策定、アプリケーション性能試験/データ伝送性能試験/管理運用施策を想定の上、実証実験に至る過程とその後の標準化、普及啓蒙活動、運用効率化プラン作成について解説していきます。
市場価値、利用者ニーズを捉えた「差別化」に応えた選択か?
-クラウド利用評価/策定-
デジタル時代において市場、顧客はさまざまな期待を抱いています。企業にとって顧客の拡大するニーズを満たすための柔軟なクラウド戦略を持つことがますます重要になっています。従来の方法で製品/サービスを選ぶのではなく、快適さ、心地よさ、便利さ、使いやすさによって製品/サービスが選ばれます。これには顧客データを分析する必要がありますが、組織内で利用可能な情報やソーシャルメディアなどの公開リソースが、ハイブリッドクラウド分析プラットフォームにおいて重要になる可能性があります。
従来の商用アプリケーション、一般に公開された標準的なクラウドサービスにもカスタマイズが求められていますが、同業、競合企業でデジタル化を推進するイノベーターも次々に登場しているため、企業が顧客の嗜好傾向をつかみ、迅速かつ適切な形でサービスを提供することは困難です。顧客にとって、製品/サービスにアクセスするための全てのチャネルにわたって統一されたユーザー体験を必要としていますが、クラウド上にあるCRM機能がオンプレミスのトランザクション処理システムとシームレスに統合できる場合にのみ、統一されたユーザー体験を提供することができます。
選択は市場価値、利用者ニーズを捉えた差別化に応えているでしょうか?
企業戦略に合わせたハイブリッドクラウドの検討・採用圧力はますます高まってくるでしょう。
ビジネス可用性戦略はテスト可能で、環境全体でサービスの価値を相乗効果で高められるか?
実現方式検討・策定、アプリケーション性能試験/データ伝送性能試験/管理運用施策
洪水などの自然災害やパンデミックは、企業のビジネス可用性戦略が有効に働いているかのリトマス試験紙となるでしょう。クラウドの採用に柔軟性を持たせることで、また、オンプレミス環境との統合を通して、企業は中断のないタフなサービスを提供できるようになります。
新しいテクノロジーに精通した顧客はデジタル化の過程は経ており、洗練されたユーザー体験を有しています。ユーザー体験のシナリオは、カスタマージャーニーマップを通じて視覚化できます。
地域情報収集・加工サービス事業者のサービスを例にとると、まず、オペレーターは、撮影機器を使用して位置情報とともに、写真、動画などのデジタルドキュメントをクラウドにアップロードし、SMSでリアルタイムに撮影開始・撮影終了のステータス情報を更新通知し、必要に応じて画像格納処理、処理通知、承認を通じて情報を加工するチームのマネージャーとのやり取りを完了し、数時間置かずに配信プラットフォームで閲覧可能な状態とします。撮影から加工、配信までの全過程で、高性能のクラウドアプリケーションと十分な性能を有するオンプレミスの映像加工、編集システムを組み合わせますが、これには、地域情報収集・加工サービスの環境全体で相乗効果を促進するためのハイブリッドクラウド採用モデルが必要です。
加工された画像・動画データを閲覧者に「お薦め」の形で提供する際には、内部ソース、ソーシャルメディア、およびその他の公開されている情報からの閲覧者データを分析して、意味のある洞察を導き出し、閲覧可能な画像・動画の候補を提案するために、高度な統計モデルを採用します。これは連携されたデータの取り込みとレポートを通じて、柔軟なクラウド戦略を採用することによってのみ可能になります。
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利害関係者のための価値の最適化に必要な行動は?
運用効率化プラン(投資効果算出)他
すべての企業は、利益の増加と資本の増価を通じて株主の価値を最適化するという最終目標を持っています。企業は、競争力を高め、顧客のニーズに対応するために、ほとんどのアプリケーションをクラウドに移行しようとしますが、コスト価値も考慮する必要があります。アプリケーションをクラウドに移行するには、ビジネスユニット全体で統合された意思決定を推進する戦略的計画が不可欠です。
企業・組織は、適切なハイブリッドクラウド戦略を計画し、いざ実行に移る場合も、資本支出を伴うため、原則として「機器が故障しない限りはそのまま」という対応に留まる傾向があります。企業がハイブリッドクラウド戦略を実行しようとした時に、期待ほどの結果を得られない主な理由の1つは、クラウド化のイニシアチブがビジネスユニット内で行われているためであり、エンタープライズレベルのアプローチに欠けている点です。
企業が、ハイブリッドクラウド戦略にビジネス成果主導のアプローチを採用する必要があります。
ビジネスユニット内では、ベンダーによるクラウドネイティブ開発に向けて必要なパッケージの展開、アプリケーションデータの移行に関わる業務が進行します。技術的な負債を増やすことなくクラウドサービスプロバイダーと連携する前に、ハイブリッドクラウド戦略の適切な基礎を完成させる必要がありますが、これにはクラウド移行のためのビジネスユニットが求める主要な指標の優先順位、オンプレミス環境に残すべきアプリケーション、サービスプロバイダーからの利用可能なオプション、ベンダーロックインの制限、使用率ベースの価格設定オプション、複数年にわたるコスト、および価値の測定の分析が含まれます。
また、ハイブリッドクラウド戦略が進行中の他の施策とも整合している必要があることも認識すべきです。業務効率化を進める組織では、従来から利用しているハードウェア・ソフトウェアの最新化、プロセス改善、RPA採用などの自動化施策、システムの統廃合計画など、並行して進む施策が存在する可能性があります。
これら施策と足並みを合わせ、適切なタイミングで適切な投資を行います。ハイブリッドクラウド戦略の結果は、主要な利害関係者に公開し、利害関係者が進捗状況を認識し、予算が適切に配分される機会を奪われないようにします。顧客と投資家の信頼を高めること目的として、ハイブリッドクラウド戦略を採用するメリットや成功事例をWebサイト/年次報告書に公開することも必要になるでしょう。
顧客ニーズの理解、適切な製品/サービスを提供して、競争力を高められるか?
実証実験、標準化・普及啓蒙活動、規制の考慮
過去20年間で、従来型の組織から市場シェアを獲得した新興企業の躍進が見られました。これは、ビジネスを開始する容易さと顧客へのアクセスを可能にするハイブリッドクラウド戦略なしでは不可能でした。適切なクラウド戦略により、多くの企業は新しい製品/サービスを迅速に立ち上げることができます。また、クラウド分析プラットフォームを使用した行動データの適切な分析を通じて顧客のニーズを理解し、適切な製品/サービスを提供して、競争力を高めることができます。
今日の市場は、顧客に焦点を絞ったサービスを提供する専門知識を有するニッチなプレーヤーによって推進されています。こうした専門サービスを開発するスタートアップ企業との戦略的パートナーシップ活用により、コアサービスを維持しつつ、ビジネスモデルを進化させることができます。
特に、顧客満足度の向上を目指し、かつ予期しない危機/パンデミックの状況に対応する能力は、採用されているクラウド戦略の柔軟性によるところが大きいと認識されています。
規制考慮の観点からは、すべての組織は、規制やコンプライアンスを順守する必要があります。データプライバシーの問題、ランサムウェア攻撃、および詐欺事件の増加に伴い、厳格なセキュリティ制御とデータ保護対策を実装することがますます重要になっています。ハイブリッドクラウドの採用により、組織は重要度に基づいてデータを分類し、アクセスと取得のための十分な是正措置を提供し、不正使用やセキュリティの失効を防ぐことができます。クラウドプラットフォームのバランスの取れた採用を実施することにより、組織はコンプライアンス要件を満たすことができます。
組織が取り組んでいる絶え間ない課題の一つに、膨大な量のデータを規制に従う形で複数のデータソースから分析する必要があることです。ハイブリッドクラウドモデルがない場合、この処理に数週間かかる可能性がありますが、オンプレミスの独自システムと組み合わせて、ハイブリッドクラウドモデルを通じて統合された規制対応用のレポートを作成することもできます。
クラウド指向の組織は、多くの企業にとって魅力的に見える部分もありますが、それに向けた動きに落とし穴がないわけではありません。コアサービスやミッションクリティカルなサービスなど、オンプレミスで保持しても問題のない重要なサービスがあるため、クラウドへの移行は慎重に計画し、クラウドに移行した後もいざという時にはオンプレミス環境でビジネスプロセスを継続できる仕組みの選択肢を残しておく必要もあるでしょう。オプションとしてオンプレミスアプリケーションをサポートする必要があるため、クラウドへの移行は費用のかかる作業になってしまう場合があります。これら落とし穴についても実証実験/実装の過程で明らかにしておくとよいでしょう。
組織は顧客とアカウントの情報を相互に共有して、より迅速なサービスリリースと浸透を可能にし、カスタマイズされた製品/サービスを提供し、多くのソリューションを提供します。ハイブリッドクラウドモデルを採用することで、組織は先発者のアドバンテージを受け入れ、時代の先を行くことができるでしょう。